店の前に置いた睡蓮鉢に


店の前に置いた睡蓮鉢に

何匹かの金魚を買っていたのは

何年前だったか・・・

 

生き物の常でその金魚達は

一匹また一匹と死んでいった

 

それでも最初の頃は

死に行く彼等を追いかけるように

新しい金魚を買ってきてはその鉢の中に離していたのだが

やがてそれもしなくなった

 

店の前を通る人々に、和みを感じてもらえれば・・・

と思って続けていたのだったが

小さな命が消え行く度に

その命が惜しいと思うようになったのだ

 

そんなわけで金魚は止めにしてその代わり

ある春先その鉢のため

新しい睡蓮を買い求め活けた

 

いつ咲くのか・・・

そんな期待を持ちながら折に付けて鉢を見ていて

ある朝小さな異変に気付いた

 

短い針のようなものが水面に浮いている

と見る間にその針は魚のような動きで

ススっと睡蓮の葉の下に隠れたのだ

 

エッ!?と思うと同時に

何だかとても嬉しくなっている自分に気付いた

 

おそらく買い求めた睡蓮の根か葉のどこかに卵が産みつけられて

それが鉢の中で孵化したのだろう

 

小さな小さなメダカの幼魚だった

 

卵は一つだけだったのか他のものは孵化に失敗したのか

それは一匹だけだった

時を違えて後から生まれてくるものもあるかと待ったが

結局数が増える事はなかった

 

その幼魚は見る間に育ち

立った一匹の寂しさを物ともせず

一年もしないうちに成魚になった

 

今日も元気だな・・・

そんな気持ちで毎日見ているうちはよかった

だが人間は(私はと言うべきか)懲りないもので

その鉢の中に少し仲間を入れてやりたくなった

 

そう思うと矢も盾もたまらず

10匹ほどのメダカを求めて仲間を増やしてやったのだ

 

だが結果は金魚と同じ

彼等は時と共に数を減らし

やがて一匹もいなくなった

 

人間は― 私はというべきか ―

自分の和みのために

なんと空しい事を続けているのか・・・

 

今度こそは止めよう―

そう思った

 

小さな命でも

そしてそれが自然の摂理だとしても

それが消えていくのは惜しい

 

 

今年も睡蓮の咲く季節になった

 

朝に開花し 昼頃には閉じてしまうその花を

毎朝楽しんでいた

 

そしてある朝

今度は二匹のメダカが孵化している事に気付いたのだ

 

またまた小さな喜びに似た気持ちが湧き上がる

それと同時に後悔も・・・

 

鉢の中でメダカが繁殖している事など思いも至さず

私は彼らが姿を消した後

その鉢を掃除して水を替えてしまったのだ

 

それをしなければ

いやもっと想像力を働かせて

注意深くその作業をしていれば

今目にすることが出来る彼等の姿は

この何倍いや何十倍であったかもしれない

 

小さな命が惜しいと言いながら

なんとお粗末な感性・想像力しか持ち合わせていないのか

 

考えてみれば店の前に並べられた鉢植えの花達も

毎年滅び毎年蘇っているではないか

 

毎日の水やりと時々思い出したようにやる施肥だけで

何年も何年も・・・

 

自然を愛し花を愛で命を慈しむ・・・

そんな事を思っていながらその思いが

頭の中でのものにすぎなかった

 

なんと言うお粗末な感性

そしてなんと言う傲慢さ

 

そんな気持ちが湧き上がり

その二匹のメダカを発見した時

目頭が熱くなってきたのだった


店主の独り言 このページの先頭